数ある「争族」対策の中で、強力な武器の一つが「遺言書を書く」ことです。(「争族」対策の意味はこちらをご覧ください)
毎月開催しているセミナーでも紹介させていただいておりますが、今年の1月から自筆証書遺言の方式が緩和されるなど、国も遺言を奨励する傾向にあります。
今回は、なかでも「遺言執行者」について書きたいと思います。
(開催中のセミナーでは、時間の関係上、扱うことのできないテーマにつき「セミナーフォロー」という形で記事アップさせていただきます)
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理、その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します(民法1012条第1項)。
簡単に言えば、財産を管理して、遺言書で指定された人に渡していく役割を持つのが遺言執行者です。遺言者が亡くなった後、その遺言の内容を確実に実現する司令塔の役割をする人と考えてもよいと思います。
遺言内容を実現するという点において、遺言執行者の力は強く、もし、遺言の執行を妨害する人がいた場合は、その妨害行為の排除を行うこともできます。
遺言執行者は、原則、いてもいなくてもどちらでも構いません。
しかし、遺言執行者がいると、遺言の執行がかなりスムーズに進みます。一方、いない場合は、たとえば預貯金の払い戻しを行う場合、銀行から相続人「全員」の署名押印等が求められるため、特に親族関係が複雑だったり、揉めている場合は、その執行にかなりの時間を要してしまいます。
遺言執行者がいないと、せっかく「争族」対策のために遺した遺言が、かえってトラブルを大きくしてしまう可能性すらあるのです。
遺言執行者は、@遺言者により遺言で指定された者、もしくはA家庭裁判所に選任された者で、その就職を承諾することにより任に就くことになります。通常は@のパターンが多いと思います。
つまり、遺言を書く場合、遺言執行者の指定をセットとして考えておけば、遺言書に込めた「ご自身の想い」が確実に実現しやすくなる、と言えるでしょう。
遺言執行者は、相続人の中から一人を指定してもいいですし、専門家に頼むという方法もあります。
今回の相続法改正では、この「遺言執行者」の権限が明確化されました。
これまであった「遺言執行者は相続人の代理人とみなす」という文言が削除されたり、(前記した)民法1012条第1項などで、その法的地位が明確化されました。たとえば、遺留分侵害額の請求がなされる場合等、「遺言者の意思」と「相続人の利益」とが対立する場合においても、遺言執行者は、相続人の利益のためではなく、あくまで遺言者の意思に従って職務を行うことが明確化されました。
(さらには、権限の内容が「特定遺贈がなされた場合」と「特定財産承継遺言(いわゆる「相続させる旨の遺言」)がなされた場合」とに分けたうえで具体化されています。)
遺言執行者の権限が明確化されたこともあり、「遺言内容を実現する」役割である遺言執行者の重要性は、さらに高まるものと予測されます。